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日記、コンピュータ、備忘録、書きたいことを書きたいままに。気まぐれに更新中。

コンビニというセーフティネット

眩しい朝日が跳ねる赤いランドセルを照らす中、足繁く通ったコンビニエンスストアに向かった。その日は引越当日で東京の住居を引き払う日。恐らくそのコンビニに向かうことは、人生においてもう無いだろう。

東京で1人暮らしを初めて、最も通い詰めた飲食店はそのコンビニだった。そのコンビニには店内に飲食スペースがあり、自宅で処分するゴミが増えるのが面倒くさかった私は、サンドイッチを買って店内で食べ、店内のゴミ箱にゴミを捨てて帰っていた。

恐らく、当初はカフェコーナーを意図して設計されたのだろうが、私のような利用者やそこで晩酌をはじめている人も居た。あるサラリーマンはそこでノートパソコンを広げなにやら資料に目を通していた。椅子は丸いすが4つしかなく、テーブルの奥行きも狭いのに「よくそんなことをするな」と驚いたことが印象に残っている。

また、こんなエピソードもある。ある暑い夏のこと、いつものように昼食のサンドイッチをほおばっているとき、恐らくコンビニのオーナーとおぼしき人が、外を歩いている人に声をかけていた。片足が不自由に見えるその老人は、オーナーと「いやー電気が止められちゃってさあ。困ったもんだよ。いやー暑くてたまらない」と陽気に会話していた。オーナーは「こんなに暑くて、さぞ喉が渇いたでしょう」といって、アイスコーヒーを無料で提供していた。私はその様子を神妙な面持ちで見つめていた。

フランチャイズで展開するコンビニには個性が無い。レジ打ちや品だしをするアルバイトはあまりやる気が感じられない。*1ただ、数多の店舗を展開するコンビニは人々の生活に密着し、今や必要不可欠なものとなっている。そこには人との繋がりも確かにあった。毎日のように通っているものだから、店員は私の顔を覚えて、飲食物を買うと必ずお手ふきを入れてくれるようになった。きっと、バイトの人やオーナーの人には「サンドイッチマン」みたいなあだ名がつけられていたのかも知れない。ただ、無性に人恋しくなったとき、私は人を求めてコンビニでご飯をたいらげていたのかも知れない。そこには店員と変な客という、適切な距離感があった。

かくして、最期のサンドイッチを頬張り終えゴミを捨て荷物を持つ。自動ドアが開くとき、私は小声で「今までありがとうございました」と言ってお店を後にした。

*1:バイトなんだし気楽にやってほしい